シリア難民支援速報

The Road ×クーリエ・ジャポン|激論! シリア難民の「引きこもり問題」を本気で考えてみた

2017.08.15

 cj_logo_blue_100px [ 本連載は、クーリエ・ジャポンとの連動掲載です。 ]
ヨルダンのザータリ難民キャンプで創刊された、“難民の難民による難民のための”月刊誌「THE ROAD(ザ・ロード)」。同誌から選りすぐった傑作記事や動画を毎月お届けする。

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PHOTO: ALVARO FUENTE / NURPHOTO / GETTY IMAGES

ザータリ難民キャンプでも仕事や学校に行かず半年以上自宅にいる15~39歳の「引きこもり」の人の増加という問題が起きている。問題の根本を探るため、「ザ・ロード」の記者が関係者に幅広く取材した。

動画シリーズでは、キャンプ内のサーカス・スクールに通う子どもたちを紹介。「いつか雲に届くほど高く飛びたい」──宙返りやバク転などの技に没頭するうちに、彼らの夢は広がっていく。
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シリア難民の「引きこもり問題」を本気で考えてみた
Text by Ahmed Ismail Al-Salamat and Ahmad Mohmed Al-Salamat


「何もせず家にいると、自分がゆっくりと溶けていくロウソクになったように感じます」

こう語るのは、ザータリ難民キャンプに暮らすシリア難民カラフ・ムハンマド(25)である。

ザータリの若者の多くが、家族に養われている。妻子の収入に頼っている場合もある。彼らは仕事を探す努力をしないまま、若くして結婚し、「仕事がないのは社会のせいだ」と自分を正当化しているのだ。

支援団体「IMC : International Medical Corps」で「ライフ・スキル」研修を担当するサナ・アルカセムによれば、キャンプ内の若者の93%が、仕事もなく、キャンプ内の支援団体が提供する職業訓練コースへも参加せず、ただ家で時間をつぶす毎日を過ごしているという。助けてもらうことばかり考え、家族を当てにする者も多い。これが怠惰や依存でなくてなんだろう。

「戦争によって引き起こされた困難な状況が、多くの若者たちから働く意欲を奪っています。自営で事業を始める可能性も限られていますし、こういう状況が続けば、精神を病むことさえあります」と、アルカセムは言う。

冒頭のカラフ・ムハンマドは、シリア内戦が始まった当時、大学生だった。ところが、内戦のせいで学業を中断せざるをえず、ザータリ難民キャンプで避難生活を送るようになった。3年前からぜんそくを患い、働くこともできない。

「自分がただ時間を無駄にしていることはわかっています。毎日、午前1時半に寝て、11時に起きています。朝食をとり、午後2時頃からは昼寝をします。兄弟は働いているので、私に小遣いをくれます。私もときには、食料配給の粉末ミルクを売って小銭を稼ぎます。自分がこんなに弱く、無力な存在だとは思いませんでした……」

同じく中学3年生で学業を中断したムハンマド(19)は、自分に合った仕事がないのだから、仕方ないのだと話す。

「ザータリに来てから、仕事がないまま結婚をしました。費用は父が出してくれました。ザータリに来て以来、私は何もしていません。父がキャンプ内の支援団体で働いているので、生活には困りません。毎日することと言えば、電話で友達と話すだけ。仕事や職業トレーニングには、いまのところ興味はありません」

引きこもりの人が増える背景には、ザータリキャンプの深刻な失業問題がある。シリアでは農業をしていたマフムード・アルハリーリ(40)は、2012年にザータリに来て以来、ずっと仕事を探している。だが、どこに行っても、待つように言われるばかりだ。

「毎日、友人や隣人との会話で暇をつぶしていますが、心は陰鬱で退屈です。生活は、食料配給と、湾岸諸国で出稼ぎをしている親戚の仕送りに頼っています。こんな生活が正しいはずありません。シリアに戻り、再び農業ができる日を待ち望んでいます」

子を持つ親世代はこの状況をどう見ているのだろうか?

ウム・ワエル(37)は、母親の立場からこんなメッセージを送る。

「確かに、仕事がないせいで若者たちは無力感に苛まれています。でも、何度失敗してもあきらめずに、挑戦し続けてほしい。若者は、シリアを再建する未来への希望なのだから」

アブ・カリッド(55)は、父親としてこう話す。

「キャンプ内で、何もせずに家に閉じこもっている若者は多い。彼らは若者らしい『魂』を失ってしまったようです。『人は自分の蒔いたものしか刈り取れない』という諺を彼らに思い出してほしい」

前出のアルカセムは、多くの若者が父親と別れて暮らしていることも、この問題の一因だと考えている。彼らにはロールモデルとなる男親が身近にいないのだ。アルカセムはすべての若者たちに対し、仕事を探し続けたり、支援団体の職業訓練コースに参加するようにと働きかけている。


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高く飛び上がると、雲に届いたような気持になる
Directed by Yaser Al-Hariri / Project Director Omar Braika / Supervisor Cyril Cappai, Hada Sarhan

00:30-00:54 ザータリキャンプには5年住んでいるよ。ここでは、勉強したり遊んだり。体を動かしたいからときどきサーカスにもいく。シリアにいた頃、兄弟姉妹やいとこたちと良く遊んだよ。その頃、僕は7歳だった。いまは10歳になった。
00:55-1:06 お父さんが「ザータリキャンプに行こう、そのほうがいい」と言ったんだ。シリアではたくさんの子どもたちが亡くなった。銃声が聞こえると、みんな泣き出した。
01:15-01:22 僕が喜んでいると、兄弟たちも喜ぶし、悲しんでいたら、みんなも悲しくなる。
01:28-01:38 サーカスに通って2年になる。最初は、いとこや友達のように宙返りがしたくて、サーカスに入った。
01:49-01:59 ザータリキャンプで、たくさん友達ができた。ほとんど、サーカスで出会った。はじめは、いとこしか知らなかったけど。
02:18-02:25 サーカスに行きはじめて、たくさん友達ができた。
02:39-02:50 難しくてできない技があると、友達が励ましてくれる。最初は簡単な技を練習して、成功したらどんどん難しい技に挑戦していく。一番難しい技ができるようになるまで。
02:54-03:00 僕にとって一番難しいのは連続技。でも成功すると、わくわく、嬉しくなる。
03:16-03:22 友達もいとこもみんなが好きな技だ。
03:35-03:45 サーカスに通う前は、いとこたちに後ろ宙返りや前宙返りを教わった。
03:56-04:01 最初は砂や土の上で練習した。
04:18-04:21 高く飛び上がると、まるで雲に届いたような気持ちになる。
04:33-04:50 将来は、お医者さんになりたい。どこにでも病気はたくさんあって、お医者さんは足りないから、僕は無料で患者さんを助けたい。お金を持っていない人もいるから。
04:52-04:59 僕の未来は真っ白だ。好きな色は緑だけれど、いまは白が好き。雲の色だから。

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