イラク

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2003年のイラク・ヨルダン国境の難民キャンプでの緊急医療支援を皮切りに、JENはイラクでの活動を開始しました。フセイン政権崩壊前から、教育環境の悪化が著しかったイラクで、2018年までの間、一貫して社会的に弱い立場に置かれがちな子どもたちへの支援を優先し、学校の校舎と衛生施設の修復および衛生教育事業を行いました。この活動は、バグダッド市内に限らず、キルクーク県、サラハディーン県、バビル県、ディヤラ県、アンバール県へと広がり、民族・宗派によらない公平な支援として、イラクの復興に貢献してきました。

2014年、武装勢力によるイラク国土一部制圧などに象徴されるイラク危機が起こりました。これを受け、JENは同年10月より、武装勢力制圧地域からイラク北部クルド人自治区に逃れてきた人びとへの緊急支援、そして解放された故郷に帰る帰還民への緊急・復興支援を始めました。

2018年7月、JENはイラクでの活動を終了し、今後も基本ニーズである給水が継続されるよう、事業を他団体に引き継ぎました。

故郷に帰るその日まで -国内避難民の緊急支援- (2014年10月〜2018年7月)

JENは、2014年10月より多くの人びとが身を寄せるクルド人自治区内に支部を開設し緊急支援を開始しました。ホストコミュニティ(現地受け入れコミュニティ)や避難民キャンプで避難生活をおくる人びとが、故郷に戻ることができるようになったとき、最低限の健康をたもてるよう、安全な水、衛生的な環境を提供しました。そして、故郷から離れている間に得た知識や経験を故郷に戻ったときに活かせるように、水衛生設備の補修技術の習得訓練など、避難民のキャパシティビルディングにも取り組みました。

故郷に帰る帰還民への復興支援 (2016年1月〜2018年7月)

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2014年以降、武装勢力とクルド自治政府治安部隊(ペシュメルガ)・イラク政府軍との戦闘が続く地域の一部では武装勢力からの奪還が実現し、解放された地域には、2017年2月時点で既に約150万人が帰還していましたが、紛争前の生活を取り戻すのは容易ではありません。公共施設や家屋は破壊され、電気や水へのアクセスもままならず、生計手段は失われていました。

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JENは故郷に戻った人が、そこにとどまり、日常生活をすぐにスタートできるよう、破壊された水設備が修復されるまでの給水や、設備の修復支援を行ってきました。

社会的に弱い立場に置かれがちな子どもたちへの支援(2003年8月~2018年3月) 

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戦争やその後の経済制裁を経て、イラク国内の多くの学校の設備が老朽化しているにも関わらず、予算不足のため修復されずに放置されていました。2003年に起こったイラク戦争でも、空爆や爆弾の被害にあい、その後の略奪を受けてさらに学校環境が悪化しました。特に、貧困地域の小学校は、安全で衛生的な学習環境からはほど遠いのが現状でした。JENは、2003年8月からバグダッド市で、特に貧困状態にある地区を中心に小・中学校の修復と衛生教育の事業を実施しました。

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トイレや水道などの水周り設備の修復・再設置に重点を置きつつ、子どもたちが安全で衛生的な学校環境で学べるように、イラクの教育省・ユニセフと協調しながら学校を修復しました。衛生教育では、まず教師を対象にした衛生促進ワークショップを実施し、修復した水・衛生施設をどう使い、いかに生徒の健康に役立てるかなどの指導を行いました。また、修復後も学校の維持管理がきちんとなされるように、掃除用具の配布や生徒による掃除の推進などもサポートしました。子どもたちには歯ブラシやタオル、石けんなどをまとめた衛生キットを使って、実践しながら楽しく学べるよう工夫しました。

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2009年からは、アンバール県、バビル県、キルクーク県、ディヤラ県へと活動地域を広げました。治安の改善により、より広い地域を対象にできるようになったことは、地域格差の少ない支援、格差の少ない教育サービスの提供に繋がっており、民族・宗派によらず平等な支援に繋がりました。

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学校は、子どもたちが安心して過ごせる場であるだけでなく、親にとっても安心して通わせられる場所である必要があります。しかし、トイレが汚かったり不足しているために早退をしたり、学校に来ない子どももいます。これら施設の維持管理がなされていないために起こる生徒たちの欠席や遅刻、早退を減らすために、衛生教育を通じて子どもたちが心身共に健康に成長することを目指しました。

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また、県教育局と協働で施設修復後にモニタリング等を実施し、教員に対して衛生教育を行いました。JENの活動が終了した後に、行政機関や教員、学校が主体となって衛生教育を継続するための体制づくりに貢献しました。
これまで計251校で修復と衛生教育を行いました。延べ131,621人の子どもたちが、安心して学校へ通えるようになりました。2018年3月をもちまして、中央政府管轄地域での活動を終了しました。

バグダッド市内の下水設備の修復事業

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バグダッドの下水システムは、学校同様、経済制裁による財政悪化に伴う設備やその維持管理不足で深刻な状況でした。施設の不備により大量の下水が排水と共に、空き地などに溜まり、その付近を子どもたちが遊ぶこともあるため、住民の健康被害を引き起こす恐れがあります。また、雨が降る冬には、道路一面に下水・排水が溜まり、人も車も通過できない状態になる地区もありました。こうした状況の中、 2004年8月からJENは下水システムの中でもポンプ設備の修復を行い、市内に下水が溜まるのを防ぎ、人びとの衛生環境改善に貢献しました。

 

イラクの基本情報

国名 イラク共和国( Republic of Iraq )
首都 バグダッド
人口 約3,720万人(2016年:世銀)
面積 43.74万km2(日本の約1.2倍)
人種・民族 アラブ人(シーア派約6割、スンニ派約2割)、クルド人(約2割)、トルクメン人、アッシリア人等
言語 アラビア語、クルド語(共に公用語)
宗教 イスラム教(シーア派、スンニ派)、キリスト教他

出典:外務省ホームページより 2017年1月現在