
事業開始年:2001年〜
現在の活動地:
シンド州ダドゥ郡、KP州ノウシェラ郡、
ハイバル・パフトゥンハー州(KP州)
オラクザイ郡
パキスタンでは2025年8月中旬からの記録的豪雨で洪水や土砂崩れが相次ぎ、8月28日までに819人が死亡、1,111人が負傷、家屋8,658戸が損壊しました。60万人超が避難生活を余儀なくされ、食料や安全な住まいが足りない世帯が多い状況でした。
とくに北西部のハイバル・パフトゥンハー州(KP州)の被害が深刻で、157万人が被災し、そのうち60万人が支援を必要としています。KP州内でも特に被害が深刻な地域である北部は、家屋やインフラの大規模な破壊に加え、10月以降は夜間の冷え込みが厳しく、防寒具や寝具の不足が命に直結するような状況です。
ジェンでは、緊急支援として、この北部で最も脆弱な世帯に食糧と防寒衣料・寝具などの生活必需品を配布する緊急支援を実施しています。
洪水で大きな被害を受け、とくに支援を必要とする最も脆弱な世帯に対して、食糧と冬を越すための生活用品を届けます。これにより尊厳を守りながら生活を立て直し、食糧の不安を改善するとともに、寒さの厳しい冬を安全に迎えられるよう支援します。

現地の様子

配布する中身の点検
パキスタンは、気候変動の影響を強く受けやすく、世界でも災害リスクの高い国です。2022年の大規模洪水では、3,300万人以上が被災し、住まいや仕事、水や衛生など、人びとの暮らしを支える基盤が大きく損なわれました。特に給水インフラへの被害は深刻で、多くの人が安全な飲み水を失いました。
その後も、物価高騰と2023年の洪水が重なり、被災から2年以上が経った現在も、1,000万人以上が人道支援を必要とし、人口の約45%が安全な水にアクセスできない状況が続いています。
中でもシンド州は被害が集中した地域で、多くの郡が洪水の影響を受け、給水施設の破損が全郡の約7割を占めています。その結果、州人口の約40%が安全な水を確保できず、汚染水や不衛生な環境により、子どもを中心に下痢やコレラなどの水を原因とした疾患が広がる深刻な状況が続いています。
本事業は、シンド州カイルプール郡の中でも特に被災の影響を受けた地域(約13,200人)を対象に、給水施設の整備を通じて、安全な飲料水へのアクセスの確保と、地域による持続可能な施設の管理体制の構築を目指します。
あわせて、給水施設の維持管理や衛生に関する啓発活動を進めることで、水・衛生環境を改善し、水を原因とした疾患の発生率の低減につなげます。

給水用の水が通る場所を整備

基礎工事が完了し、壁工事の着手

水衛生理解促進キャンペーンの実施中

既存の給水ポンプ場の改修が完成
洪水により、シンド州では2,748か所の給水施設が破壊され、そのうち116か所がカイルプール郡に集中した。洪水から約2年が経過した現在も、州内に残る1,752か所の未復旧施設のうち、最多となる75か所が同郡に残存している。
この結果、郡人口の約40%(約104万人)が安全な飲料水にアクセスできず、州内で最も深刻な状況にある。
また、水汲みは伝統的に女性や子どもが担っており、人口の約50%が1日2回、片道3〜4km離れた水源まで往復している。しかし、その水も必ずしも安全ではなく、健康リスクと大きな生活負担が同時に生じている。
●洪水に強く、衛生面に配慮した給水施設の整備により、安全な飲料水への安定的なアクセスが確保される
●水汲みに費やされていた時間と労力が軽減され、女性や子どもの教育・生計活動への参加機会が拡大する
IOMの評価によると、シンド州11郡の被災居住地では56%が屋外排便を行っているが、カイルプール郡ではその割合が最も高く、69万人以上(18%超)にのぼり、深刻な衛生状況にある。
また、同郡では週ごとの水を原因とした下痢の発生率が10.1%と州内最高であり、現在では郡人口の約61%(約158万人)が水を原因とした疾患を経験している。さらに、人口の約90%が排便後に石鹸で手洗いを行っていないことから、感染リスクが慢性的に高い状態にある。
●住民主体の衛生教育・啓発活動を通じて、不衛生な生活習慣の改善が促進される
●正しい衛生知識の定着により、水を原因とした疾患の発生率が段階的に低下する
この2点を改善することで結果として、健康で安心して暮らせる生活環境が整っていきます。
2022年にパキスタンで発生した洪水で、シンド州ダドゥ郡では約85万人が被災しました。公立小学校の45%に給水施設が、36%にトイレがなく、洪水後は9割以上の学校で給水・衛生設備の利用が制限されました。多くの教室は破壊されるか修復が必要な状態で、石けんを使った手洗いもほとんど行われていません。その結果、5~10歳児の45%が水因性疾患にかかっています。
本事業では、小学校12校で教室やトイレなどを新設・修復しました。太陽光発電を利用した給水システムを整備し、井戸水を電動ポンプで屋上の貯水槽に汲み上げ、浄水フィルターでろ過して飲料水として利用可能にしました。トイレ用の貯水槽の水は、トイレの配水や手洗いに使われます。
学校管理委員会(SMC)には、地域リーダーや保護者、教師が参加し、施設維持管理や学校運営を担います。ジェンの教育オフィサーは、SMCに組織強化と施設維持管理の研修を実施。12校のSMCは3グループに分かれ、施設管理用工具を共有します。また、各学校のSMCに衛生キット(石けん・掃除用具など)を配布します。さらに、教師とSMCに衛生教育研修を行い、4・5年生の男女で構成されるWASHクラブに衛生促進キャンペーンの方法を伝授。WASHクラブは学校や家庭、地域で衛生・感染症予防等の知識を広めます。
加えて、教師やSMCには災害レジリエンス研修も実施。4・5年生の災害レジリエンスクラブには洪水や災害リスク管理の知識を伝え、クラブメンバーが他の生徒や地域に学んだ内容を広める活動を行います。
洪水によって被災した小学校12校で、教育と水衛生の環境が改善し、子どもたちが学校に行けるようになります。また、衛生教育や防災教育の実施により、水を原因とする疾患の発生率を減少させ、コミュニティ全体で災害に対するレジリエンス(回復力)を高めます。




対象の小学校に通う生徒へのインタビュー動画
シンド州のダドゥ郡は洪水によって最も深刻な被害を受けた地区の一つで、人口の57.4%(84万9,380人)の、約4万ha弱の農地が浸水しました。この郡は総合的食糧安全保障レベル分類(IPC)において「人道的危機」に分類されています。
この地域ではほとんどの農家が主に単作を行っており、病害が発生すると収穫の大半を失うリスクが高い状況でした。
洪水前も、在来の小麦の種子の生産量が減少し、病気に対し脆弱になっていましたが、改良された種子等を入手することはできず、収穫量は低い状況でした。生計は農業に依存していますが、農業効率化に関する情報網も無く、生計を支えることができていませんでした。
そんな折に起きた2022年の大洪水によって、この地域の農家は収穫直前の作物だけでなく、これから作付けする予定だった種子も失いました。収入を失い、将来の収入のための作付けも困難になったのです。
もともとこの地域の農家は農業に関する十分な知識、技術やネットワークを持っておらず、農業の効率化、種子の安全な保管に関する技術、訓練、支援もないため、種子を維持して、増やすための地域社会における持続可能なシステム構築の支援が必要だとジェンは考えました。
とはいえダドゥ郡は広いので、郡内の3つの地域を対象に、農業支援を開始しました。これにより、持続可能なシステムを構築し、地域の食料不安の解消を目指しています。
まずは参加者として、洪水で被災した中でも最も脆弱な農家を特定しました。その中から、元々農業の知識がある農家を選出し、農家グループの研修をリードする、リーダー農家としました。ジェンはリーダー農家を対象に、現代農法に関する研修をし、リーダー農家が研修で身に着けた知識を他の農家グループに伝えます。そうすることで、参加する農家はこの事業を「自分たちのプロジェクト」として捉え、主体性を持って取り組んでもらうことを見込んでます。全ての参加農家に種子や肥料等を配布して作付けしてもらい、収穫した作物から採れた種子のうち、自身が配布で受け取ったのと同量を、地域の他の2軒の農家に提供し、研修も受けます。次のシーズンにも各農家がさらに2軒ずつに種子を提供し、より多くの農家グループを対象に研修をし、提供された種子で作付けし、収穫した種子をさらに多くの農家へと提供していきます。これを繰り返すことで、地域全体の「農家の力」を強化するシステムの構築を目指します。この地域社会の食料不安を解消する持続可能な事業は、ジェンと株式会社ゼンショーホールディングスが連携して実現しています。
事業を通じて、リーダー農家を中心とした農家世帯同士、また農家と政府の農業普及部門やその他の関係者とのネットワーク構築も、同時に目指しています。
今回は、自家採取を繰り返しても、収量が極端に減少しないことが確認された国産の小麦、大麦、からし菜の種子を採用しています。種子を受け取った農家が収穫する度に別の2軒の農家に種子と技術を提供して、各々の食料不安の解消だけでなく、「農家の力」を強化する仕組みの構築を目指しています。特に、作付けに適した種子を選び、その適切な保存方法などの技術を習得するので持続可能な農業を営める農家を徐々に増やしてゆくことができます。最初の185軒が次の370軒(各農家が2軒分を提供)に、その185+370軒が翌年また2軒ずつに種子と技術を提供して、時間はかかりますが、2年後には1,665世帯が、3年後には4,995世帯が持続可能な農業ができることを目指しています。これにより、地域の農家の力を強化し、安定した農作物の生産ができるようになると想定しています。



