パキスタン
Pakistan

事業開始年:2001年〜

現在の活動地:
シンド州ダドゥ郡、KP州ノウシェラ郡、
ハイバル・パフトゥンハー州(KP州)
オラクザイ郡

パキスタン シンド州で洪水被害を受けた方々への農業支援(2023年9月~)

事業地の背景

シンド州のダドゥ郡は洪水によって最も深刻な被害を受けた地区の一つで、人口の57.4%(84万9,380人)の、約4万ha弱の農地が浸水しました。この郡は総合的食糧安全保障レベル分類(IPC)において「人道的危機」に分類されています。

この地域ではほとんどの農家が主に単作を行っており、病害が発生すると収穫の大半を失うリスクが高い状況でした。
洪水前も、在来の小麦の種子の生産量が減少し、病気に対し脆弱になっていましたが、改良された種子等を入手することはできず、収穫量は低い状況でした。生計は農業に依存していますが、農業効率化に関する情報網も無く、生計を支えることができていませんでした。
そんな折に起きた2022年の大洪水によって、この地域の農家は収穫直前の作物だけでなく、これから作付けする予定だった種子も失いました。収入を失い、将来の収入のための作付けも困難になったのです。

もともとこの地域の農家は農業に関する十分な知識、技術やネットワークを持っておらず、農業の効率化、種子の安全な保管に関する技術、訓練、支援もないため、種子を維持して、増やすための地域社会における持続可能なシステム構築の支援が必要だとジェンは考えました。
とはいえダドゥ郡は広いので、郡内の3つの地域を対象に、農業支援を開始しました。これにより、持続可能なシステムを構築し、地域の食料不安の解消を目指しています。

概要

まずは参加者として、洪水で被災した中でも最も脆弱な農家を特定しました。その中から、元々農業の知識がある農家を選出し、農家グループの研修をリードする、リーダー農家としました。ジェンはリーダー農家を対象に、現代農法に関する研修をし、リーダー農家が研修で身に着けた知識を他の農家グループに伝えます。そうすることで、参加する農家はこの事業を「自分たちのプロジェクト」として捉え、主体性を持って取り組んでもらうことを見込んでます。全ての参加農家に種子や肥料等を配布して作付けしてもらい、収穫した作物から採れた種子のうち、自身が配布で受け取ったのと同量を、地域の他の2軒の農家に提供し、研修も受けます。次のシーズンにも各農家がさらに2軒ずつに種子を提供し、より多くの農家グループを対象に研修をし、提供された種子で作付けし、収穫した種子をさらに多くの農家へと提供していきます。これを繰り返すことで、地域全体の「農家の力」を強化するシステムの構築を目指します。この地域社会の食料不安を解消する持続可能な事業は、ジェンと株式会社ゼンショーホールディングスが連携して実現しています。
事業を通じて、リーダー農家を中心とした農家世帯同士、また農家と政府の農業普及部門やその他の関係者とのネットワーク構築も、同時に目指しています。

支援により改善されること

今回は、自家採取を繰り返しても、収量が極端に減少しないことが確認された国産の小麦、大麦、からし菜の種子を採用しています。種子を受け取った農家が収穫する度に別の2軒の農家に種子と技術を提供して、各々の食料不安の解消だけでなく、「農家の力」を強化する仕組みの構築を目指しています。特に、作付けに適した種子を選び、その適切な保存方法などの技術を習得するので持続可能な農業を営める農家を徐々に増やしてゆくことができます。最初の185軒が次の370軒(各農家が2軒分を提供)に、その185+370軒が翌年また2軒ずつに種子と技術を提供して、時間はかかりますが、2年後には1,665世帯が、3年後には4,995世帯が持続可能な農業ができることを目指しています。これにより、地域の農家の力を強化し、安定した農作物の生産ができるようになると想定しています。

※本事業は、株式会社ゼンショーホールディングスの支援金とジェンへの寄付金により実施しています。

洪水被災者農家を対象とした安全保障レジリエンス強化事業(2023年9月~)

概要

この支援活動では、洪水に強い複数の作物種子に加え、肥料や殺虫剤、農薬、密閉式種子保存袋を提供します。また、特定の作物栽培に関する多くの知識、経験、スキルを持ち、効率的で現代的な農法や更なる洪水の対処方法を積極的に取り入れ、他の農家を指導・支援する意欲をもつ農家を特定、リーダー農家として農業局の協力の下、研修を実施して、地域の農家を研修後もサポートできるようにします。これらのインプットを受けて地域の農家が作物生産を再開することで、作物多様性と収穫量を増やし、良質な種子を安全に保管し、洪水への耐性も上げることができ、作物の持続的な生産ができようになることを目指します。

支援により改善されること

本事業では、食糧危機の状況を改善するだけでなく、農業生産性向上と、回復力強化を目指しています。参加者が(洪水に強い種子などを受け取る)とともに効率的な現代農法を習得し、関係者とのネットワークを構築できるようにします。作物生産量を増やし、事業終了後に発生しうる自然災害等の影響を軽減し、被災しても迅速に回復する方法を身に着けた状態になることを目指しています。

※本事業は、ジャパン・プラットフォームからの助成金やジェンへの寄付金により実施しています。

洪水被害を受けた脆弱な世帯への野菜栽培促進活動による緊急食料安全保障支援(2023年2月~8月)

事業地

シンド州ダドゥ郡

概要

最も被害の大きいシンド州の中でも特に支援が行き届いていないダドゥ郡で、合計1,400世帯に、種子(肥料、農薬を含む)や野菜栽培道具キットを配付しました。種子や野菜栽培道具キットは、国際連合世界食糧計画(以下、WFP)と国連食糧農業機関(以下、FAO)がリードする国・州レベルのFSAC(食料安全保障・農業クラスター)標準を満たしているだけでなく、現地の文化にも配慮したものを採用しました。
対象1,400世帯から選ばれた野菜栽培ファシリテーター56人(男性28人、女性28人)が、農業専門家や農業局職員から野菜栽培の研修指導者養成研修を受けた後、野菜栽培ファシリテーター1人がそれぞれ裨益者25世帯の農家(全体で1,400世帯)を担当し、実地研修を実施し野菜栽培促進活動を行い、対象世帯の野菜栽培の知識やスキルの向上を促進します。

支援により改善されること

シンド州ダドゥ郡の脆弱な世帯1,400世帯(約9,100人)への種子・野菜栽培道具キット配付及び野菜栽培促進活動を実施しました。これにより、食料危機の状況が改善され、被災者の野菜栽培の知識やスキルが向上を目指します。

※本事業は、ジャパン・プラットフォームからの助成金やジェンへの寄付金により実施しています。

洪水被災者のための緊急支援(シンド州ダドゥ郡、KP州ノウシェラ郡)(2022年9月~2023年4月)

概要

パキスタンでは2022年6月からの記録的な大雨などの影響から大規模な洪水が発生、日本の2倍の面積を持つ全国土の3分の1が冠水する程の被害となりました。ジェンは、国家非常事態宣言が発出された直後から、現地パキスタンで活動してきたスタッフをハイバル・パフトゥンハー(KP)州、パンジャブ州、シンド州の被災地域に派遣し、調査の後、緊急支援を開始しました。
家も農地も生活基盤も流され水没する中、何千もの家族が最低限の所持品しか持ちだせずに、かろうじて水没を免れた主要道路やわずかに高い土地に避難されています。
KP州で最も被害の大きいノウシェラ郡では、元々生活が厳しい中、生活の糧である多くの家畜が失われましたが、家畜を何とか助け出そうと、高台に避難させることができた農家もありました。小規模酪農の農家にとって、全財産ともいうべき家畜が失われれば、人々が生き延びることができたとしても生活再建は困難を極めます。家畜の命を守ることができれば、人々の糧にもなります。家畜の飼料も全て洪水で流されてしまっていたので、残された家畜の命を守る為に飼料の提供が急務でした。地域の長老らと協議し、公平な基準に従って、最も状況が厳しい世帯に飼料を配布しました。
最も被害の大きいシンド州ダドゥ郡でも食糧パッケージと生活必需品(石鹸、蚊帳等)を配付する緊急支援を実施しています。被災地では既に、蚊が媒介する感染症や水を原因とする病気などへの懸念が高まっているため、これらに対応するために生活必需品を合わせて配付しています。被災規模が甚大なため、今後も食糧支援等を予定しています。

具体的な支援内容

ジェンはKP州およびシンド州で洪水被災者のための緊急支援を行っています。
●洪水の影響を受けた家畜(被災農家の唯一の資産)の緊急飼料配布(2022年9月 KP州ノウシェラ郡)
●洪水の被害を受けた脆弱な世帯への緊急食糧・物資配付(2022年10月~2023年3月 シンド州)
●株式会社ゼンショーホールディングスとの連携による緊急食糧配布(2023年1月~4月)

支援により改善されること

脆弱な世帯への1か月分の食糧・物資配付により、食糧危機の状況が改善されます。同時に、衛生啓発活動を行うことで、被災者の衛生知識が向上し、被災中、また洪水後に懸念される感染症などの病気に対する脆弱性を緩和することを目指しています。飼料配布は、生計手段となる家畜の生命維持につながり、小規模畜産農家の生計回復の基盤となることを目指しました。

ハイバル・パフトゥンハー州(KP州)オラクザイ郡におけるコミュニティに対する水供給支援事業(2022年4月~)

概要

ハイバル・パフトゥンハー州(以下、KP州)コハート地区オラクザイ郡の対象コミュニティで、紛争やテロの影響を受けた人びとが、安全な飲料水を確保し、維持できるよう、水衛生環境の改善を目指します。老朽化や、紛争により破損したままの給水施設の整備を行います。同時に、コミュニティを対象に、施設を清潔に維持できるようになるための飲料水コミュニティアクショングループを形成し、施設維持管理研修を通して、整備された施設の適切な使用方法を理解し、事業後の施設の維持管理体制を整えます。加えて、水衛生促進・維持に向けた水衛生促進員を育成する支援活動です。

支援により改善されること

KP州に新しく合併された郡(旧FATA)で紛争の影響を受けた地域の人々が、生活に必要な水へのアクセスや衛生啓発を通して、基本的な生活のニーズを確保することにより、安心して再定住できるようになることを目指します。

※本事業は、外務省「日本NGO連携無償資金協力」からの助成金やジェンへの寄付金により実施しています。