パキスタン
Pakistan

事業開始年:2001年〜

現在の活動地:
ハイバル・パフトゥンハー(KP)州クラム県

洪水被災者のための緊急支援(シンド州ダドゥ郡、KP州ノウシェラ郡)

概要

パキスタンでは2022年6月からの記録的な大雨などの影響から大規模な洪水が発生、日本の2倍の面積を持つ全国土の3分の1が冠水する程の被害となりました。ジェンは、国家非常事態宣言が発出された直後から、現地パキスタンで活動してきたスタッフをハイバル・パフトゥンハー(KP)州、パンジャブ州、シンド州の被災地域に派遣し、調査の後、緊急支援を開始しました。
家も農地も生活基盤も流され水没する中、何千もの家族が最低限の所持品しか持ちだせずに、かろうじて水没を免れた主要道路やわずかに高い土地に避難されています。
KP州で最も被害の大きいノウシェラ郡では、元々生活が厳しい中、生活の糧である多くの家畜が失われましたが、家畜を何とか助け出そうと、高台に避難させることができた農家もありました。小規模酪農の農家にとって、全財産ともいうべき家畜が失われれば、人々が生き延びることができたとしても生活再建は困難を極めます。家畜の命を守ることができれば、人々の糧にもなります。家畜の飼料も全て洪水で流されてしまっていたので、残された家畜の命を守る為に飼料の提供が急務でした。地域の長老らと協議し、公平な基準に従って、最も状況が厳しい世帯に飼料を配布しました。
最も被害の大きいシンド州ダドゥ郡でも食糧パッケージと生活必需品(石鹸、蚊帳等)を配付する緊急支援を実施しています。被災地では既に、蚊が媒介する感染症や水を原因とする病気などへの懸念が高まっているため、これらに対応するために生活必需品を合わせて配付しています。被災規模が甚大なため、今後も食糧支援等を予定しています。

具体的な支援内容

ジェンはKP州およびシンド州で洪水被災者のための緊急支援を行っています。
●洪水の影響を受けた家畜(被災農家の唯一の資産)の緊急飼料配布(2022年9月 KP州ノウシェラ郡)
●洪水の被害を受けた脆弱な世帯への緊急食糧・物資配付(2022年10月~ シンド州)

支援により改善されること

脆弱な世帯への1か月分の食糧・物資配付により、食糧危機の状況が改善されます。同時に、衛生啓発活動を行うことで、被災者の衛生知識が向上し、被災中、また洪水後に懸念される感染症などの病気に対する脆弱性を緩和することを目指しています。飼料配布は、生計手段となる家畜の生命維持につながり、小規模畜産農家の生計回復の基盤となることを目指しました。

ハイバル・パフトゥンハー(KP)州クラム県における子どもたちの教育環境改善支援事業
(2021年6月~)

背景

旧FATA[1]の就学率は[2]、40.38%です。中でも、クラム県では、73%の女子生徒が中退しています。その原因として、外壁が低いもしくはない学校で過ごすことに対する、女子生徒や保護者の不安感(「パルダ[3]」を重視する文化に起因)、また学校にトイレが無いこと等が挙げられます。
この就学率の低さは、後述の様々な要因から生じていると考え、現在子どもたちの教育環境改善支援事業を行っています。

① 学校施設の未整備
クラム県は、テロや紛争、宗派間の争いなどの影響で、最も学校や衛生施設が破壊され、再建や修復の必要性が高く、パキスタンでは最も取り残された県といわれています。
クラム県の全708の学校(女子、男子、共学校含む)の内、55%の学校に衛生施設がなく、96%の学校に教室がありません。
教室がある学校の内、30%の学校は外塀がありません。
衛生施設のある45%の学校のインフラも質が悪く、粗末な下水処理や、飲み水の欠如やその水質の低さが、水衛生の問題を発生させています。

② 不衛生な環境
学校に手洗い場や石鹸がなかったり、トイレが劣悪な状態である場合、感染性の病気は急速に広まります。クラム県内の学校では、衛生教育が行われておらず、生徒たちは、衛生に関する意識に欠け、石鹸で手を洗う習慣がほぼありません。子どもたちの6割近くが、急性の水因性の下痢に悩まされています。

③ 心の不調
学校に行ける環境があったとしても、紛争やテロによって引き起こされた精神衛生上の問題[4]のために、学校での授業を十分に理解できず、興味を持ち続けることができないまま、通学に問題を抱えている子どもたちが20%近くいます。

事業の概要

クラム県の学校8校で、学校インフラを改善する事で、衛生環境も改善し、生徒(特に女子生徒)の就学の増加を目指します。また、同学校の生徒を対象に、衛生教育、心のケア及び学校・衛生施設の使用について意識教育の研修を行う事で、改善された衛生状態や施設の持続を図ります。

1)学習環境の改善(学校・衛生施設整備)[5]
●現存施設の修復と新規建設、学校備品(生徒や教師用の椅子及び机、学習教材等を収納するための棚など)を提供します。
●両親教師委員会[6](PTC)および教師に対する施設維持管理研修も行います。

2)衛生教育、心のケア及び施設使用に関する意識教育
●学校と生徒を対象とした衛生キットの供与を行います。
●PTCおよび教師に対する衛生教育、心のケアの支援研修を行います。
●生徒への衛生教育、心のケア及び施設使用に関する意識教育を実施します。

対象となる8つの学校の裨益人口:3,187人

内訳
男子学生80人、女子学生3,022人、教師29人、PTCメンバー56人

トラックの上の配布用家畜飼料
レンガを積んで壁を作っている様子

害虫被害を受けた家畜農家に、家畜用飼料配布時の様子
外で生徒への衛生教育を実施中

害虫被害を受けた家畜農家に、家畜用飼料配布時の様子
事業開始前、テントで授業を受ける生徒の様子

持続可能な状況をつくるために

学校施設の整備・建設後はクラム県教育局に正式に引き渡しを行います。そして教育局の監督の下、ジェンが一緒に伴走してきた両親教師委員会(PTC)が学校施設の維持管理を担います。生徒への衛生教育と心のケア及び適切な施設使用の意識教育も両親教師委員会(PTC)が引継ぎ、継続的に実施していく予定です。

参照:
[1]旧連邦直轄部族地域(FATA)は、アフガニスタンに隣接する、部族による自治が行われていた反政府武装勢力の温床ともなっていた地域で、2018年5月末、KP州に統合後も治安情勢は不透明な状況にある。
[2]就学年齢にある公立学校の子どもの総数の内、実際に公立学校に在籍している生徒数
[3]パルダ(女性が男性の視線にさらされることから守る風習や制度:ヴェールなどもその風習の1つ)
[4]ストレス、恐怖及びトラウマ
[5]境界壁、正門、教室、トイレ、下水溝、電気工事、旗用柱、整地作業等
[6]通常教師2名、コミュニティーメンバー5名の7名で構成されている。日本で例えると地域コミュニティのリーダたちとPTA代表のような方々で構成されたチーム。